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金沢地方裁判所 昭和30年(行)5号 判決

原告 松原等 外一名

被告 金沢国税局長

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、被告が昭和三〇年三月一日原告松原等に対して昭和二八年分所得金額を金四〇八、二〇〇円となした決定のうち、金二〇八、六九〇円を超過する部分は之を取消す、被告が昭和三〇年三月一日原告大谷貞に対して昭和二八年分所得金額を金四七三、二〇〇円となした決定のうち、金二九七、九七〇円を超過する部分は之を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め請求の原因として次の通り陳述した。

(イ)  原告大谷貞は福井市佐佳枝中町四一番地において見吉屋という屋号で昭和二八年四月迄うどん、そば等の飲食店を営んでいたところ不当に重い所得税を課せられたので営業継続が不能となり昭和二八年四月二五日を以て廃業した。

(ロ)  原告松原等は原告大谷貞の廃業に際し同人に懇請して其の店舖を昭和二八年五月より同年九月迄は一ケ月金二〇、〇〇〇円、同年一〇月より同年一二月迄は一ケ月金三〇、〇〇〇円で借り受け「出前」をしない条件で見吉屋本店なる屋号で昭和二八年五月二〇日よりうどん、そば等の飲食店営業を開始した、そして原告大谷貞の三男大谷静真は福井市佐佳枝中町七〇番地において見吉屋分店なる屋号でうどん、そば等の出前専門の営業を開始した。即ちこれまで原告大谷貞の従来の営業は店舖販売と出前販売との二つに分割されたのである。

(ハ)  昭和二八年度における原告両名の当初の申告額、其の後の修正申告額、福井税務署の更正決定額、金沢国税局協議団の審査決定額は別紙第一表の通りであり、被告は原告松原等に対し昭和二八年度の所得額を金四〇八、二〇〇円、原告大谷貞に対し同じく金四七三、二〇〇円と決定する旨昭和三〇年三月一日附を以て原告等に通知してきた。

(ニ)  併し乍ら右の決定は事実を無視した根拠のない推定にすぎない。原告両名の営業の実情と収支計算は別紙第二表中原告の主張欄記載の通りである。

(ホ)  被告は原告の所得決定に当り、主として原料の仕入高から売上高を逆算し、所得を推定しているが之は単に数字上の推定であつて、それは事実と相違している。これを資産増減の角度からみれば、被告の決定が架空のものであるかゞ明白となる。もし被告の決定が正確であるならば被告の決定に照応した資産の増加がなければならぬ。併し別紙第三表に記載するように、そのような資産の増加がみられないから被告の決定は不法である。

(ヘ)  訴外福井税務署長のなした昭和二六年度より昭和二九年度迄の営業所得の査定は次の通りである。

昭和二六年 白色申告(出前を含む)      四四〇、〇〇〇円

昭和二七年 右同               七七四、〇〇〇円

昭和二八年 白色申告

原告大谷貞の分(出前を含む)   三四〇、二〇〇円

(一月一日より四月二五日迄)

原告松原等の分(出前なし)    三八〇、七〇〇円

(五月二〇日より十二月末日迄)

合計               七二〇、九〇〇円

昭和二九年 青色申告             二五八、一二一円

白色申告に換算          三二五、六二一円

右の事実は原告大谷貞に対する営業所得の決定が昭和二七年分より急激に増大したことを示すものであつて、同原告は昭和二八年度において福井税務署長に対し実情を訴えて修正を求めたが容れられなかつたので遂に廃業するのやむなきに至つた経緯を証明しているものである。

よつて別紙第一表記載の原告松原等の修正申告額二〇八、六九〇円原告大谷貞の修正申告額二九七、九七〇円を超過する部分の取消を求めるため本訴に及ぶ。

別紙第二の被告主張に対し次の通り反駁する。

原告松原等の分

(一)  収入金額中(1)米の仕入量について被告は六石五斗六升を主張し其の内二石三斗六升は原告松原等が現金で仕入れた分であると推定しているけれども之は否認する。被告が右の推定をなした理由は原告松原等が仕入代金は凡て小切手で支払つていると申立てたにも拘わらず小麦粉の仕入については現金で支払つたものがあるから小麦粉に関する小切手支払と現金支払との割合を前者六四%、後者三六%として、米の仕入代金の支払も同率となし、米についても三六%の現金仕入があつたと推定するというのであるけれども之は極めて乱暴な推定であつて承服できない。

同欄中3うどん類の収入金額(1)小麦粉の仕入量につき被告は訴外株式会社内山常吉商店よりの仕入量を八八八貫と主張するけれども其のうち五袋(三〇貫)は原告松原等の営業開始前たる昭和二八年五月二日一袋、同年同月六日二袋、同年同月十三日一袋、同年同月十六日一袋を各買入れたもので営業外の分であるから否認する。

又同欄中幸橋販売店より小麦粉三〇貫を仕入れた点も否認する。同原告が幸橋販売店より仕入れたものは闇米であつて小麦粉ではない。小麦粉は凡て前記内山常吉商店より仕入れたのである。

同欄中(7)の(ハ)副材料の仕入単価(ニ)副材料の使用量に関する被告の主張は否認する。玉子は副材料として使用しないで生のまゝ販売するものが相当量ある。又(ヘ)うどんの種類別製造数量に関する被告の主張については被告主張のような食数のとり方を否認する。更らに被告は原告松原等が訴外山田幹夫名義で銀行預金をなし、其の営業所得を隠匿していたように主張するけれどもそれは次の理由により誤りである。

(1) 昭和二八年九月中頃原告大谷貞の長男である大谷重典が原告松原等に金一〇〇、〇〇〇円の金借を申し出た。併し原告松原も開業したばかりで一時に右金員を貸与することができないため同年一〇月二日より一日金一、五〇〇円の日掛貯金を開始し右貯金を右大谷重典に融通することとした。それで原告松原等は大谷重典の使用していた訴外山田幹夫名義の預金口座に金一〇〇、〇〇〇円に達する迄日掛貯金をなし、同年一二月一九日で合計一〇七、〇〇〇円となつたので其の後日掛貯金を打切つた。よつて右貯金の払戻は大谷重典のなしたことで原告松原等の関知しないところであり、右払戻金は同原告が営業用の支払等については使用していない。右金一〇七、〇〇〇円の処理は次の通りである。

金五〇、〇〇〇円    大谷重典に対する貸付金

金三〇、〇〇〇円    昭和二八年一〇月より同年一二月迄の原告大谷貞に対する家賃債務に充当

金三、六二五円三四銭  原告松原が使用した分

金二三、三七四円六六銭 昭和二八年一二月二十九日原告松原等の当座預金に振替

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実(イ)のうち、原告大谷貞が原告主張の店舖において見吉屋という屋号で昭和二十八年四日迄うどん、そば等の飲食店を営んでいたこと、及び同年四月二十五日を以て廃業したことは認めるもその余は不知、(ロ)の事実は認める。但し原告大谷貞の係争年度における不動産収入たる家賃は五月より九月迄は一ケ月金二〇、〇〇〇円十月より十二月迄は一ケ月金三〇、〇〇〇円合計金一九〇、〇〇〇円である。(ハ)のうち原告の昭和二十八年度所得の修正申告額は否認するも、その余は認める。(ニ)及び(ホ)の主張は否認する。(ヘ)のうち原告等主張の金額の申告のあつたことは認めるも、青色申告については未だ被告において承認していない。

原告両名は昭和二八年度所得税申告について青色申告者ではなく所得計算に必要な帳簿書類は殆んど整備されておらず、原告松原等は同人の再調査請求に対する訴外福井税務署長の調査の際には収入金はすべて銀行の当座預金へ預け入れ、支払はすべて小切手によつていると申立てたが其の後の調査によると同原告は小切手以外に現金でも支払をしている事実を発見し同原告の前記申立は虚偽であることが判明し、原告等に対する実情の調査把握は困難を極めたのであるが、その調査の結果は別紙第二表中被告の主張欄記載の通りである。

右のうち原告松原等の(一)収入金額、3うどん類の収入金額(1)小麦粉の仕入量の欄にある三〇貫(幸橋配給所)の記載について説明すれば、被告は昭和三一年七月一八日中央米穀販売企業組合幸橋販売店代表者杉山正に対して原告松原等の小麦粉の取引数量について調査した結果小麦粉五袋(一一〇瓩)の取引のあることが判明したが、其の取引日時は不明であつた。けれども右幸橋販売店の係争年中の売上明細書(乙第十五号証)によれば右五袋の取引は昭和二八年六月三日の一回のみであるから原告松原等は幸橋販売店より少くとも五袋以上を買入れたことは間違いないが五袋のみを買入れたものとして計算したのである。

別紙第二表によれば

原告松原等の総所得金額 七六〇、五二四円

原告大谷貞の総所得金額 六九六、二八三円

であつて被告のなした決定(原告松原等につき金四〇八、二〇〇円、原告大谷貞につき金四七三、二〇〇円)は右金額の範囲内でなしたものであるから何等取消さるべき違法はない。

その余の原告等の主張は否認すると陳述した。

(立証省略)

理由

原告大谷貞が福井市佐佳枝中町四一番地において見吉屋という屋号で「うどん、そば」等の飲食店を営んでいたこと及び昭和二八年四月二五日廃業したこと、其の後原告松原等が右店舖を賃借し出前をしない条件で見吉屋本店なる屋号で同年五月二〇日より「うどん、そば」等の飲食店営業を開始したこと、被告が昭和三〇年三月一日原告松原等に対する昭和二八年度所得税審査決定中其の所得額を金四〇八、二〇〇円、原告大谷貞に対する昭和二八年度所得税審査決定中其の所得額を金四七三、二〇〇円と決定したことは当事者間に争のないところである。

よつて右各所得額の決定に関する別紙第二表の被告の主張につき審按する、先づ原告松原等の所得額について。

(一)  収入金額の算出

1、丼類の収入金額の計算

(1)  米の仕入量の計算

原告松原等は昭和二八年中闇米を四石二斗買入れその代金は全部小切手で支払つたと主張し同原告本人訊問の結果によれば原告は営業用として闇米を仕入れたが、この代金はすべて小切手で支払つたというのである。しかし、成立に争のない乙第一、第三号証、同第二号証の一、二、証人吉村正信の証言及び之により真正に成立したものと認める同第二号証の三を綜合すれば原告松原等は福井税務署員竹内好吉の質問に対し同原告は昭和二八年五月開業以来仕入並びに経費は全部小切手にて支払をなしてきたのであつて現金にて支払つたことはない旨を答えておるに拘らず、同原告が昭和二八年五月より同年十二月迄の間に訴外株式会社内山常吉商店より仕入れた小麦粉は合計一四八袋、金一七七、三一〇円なるところ、其の内九五袋のみ小切手にて支払い他は現金で支払つていることが認められる。そこで被告は同原告のような飲食店経営者が営業用の闇米を仕入れる場合は現金にて取引されることが通例であるとして(このことは前記証言により真正なものと認める乙第四号証により是認せられる。)先づ同原告が現金にて米を仕入れた量を直接把握せんとしたが同原告等の帳簿の不備により之が不能なるため已むなく小麦粉の小切手払と現金払の割合を小切手払九五袋、現金払五三袋(前記一四八袋より九五袋を差引いた分)の割合により小切手払六四パーセント、現金払三六パーセントの比率に換算し之を原告主張の米の仕入量四石二斗(六四パーセント小切手支払分)に対する現金払の米の仕入量を推算して二石三斗六升(三六パーセント)の数値を得、之を以て米の現金仕入量と推定し、米の仕入量合計を六石五斗六升と認定したことを認めることができる。

同原告は右のような被告の推算による認定は甚だ乱暴である旨主張するけれども右認定の通り所轄税務署員の質問に対する同原告の応答が真実に反して信を措くに足らず且つ其の他に資料とすべき完全な帳簿をも具備しない以上被告が右のような推定の方法により米の仕入量を算出認定することは蓋し止むを得ざるところであつてむしろ、帳簿の備付を怠つている同原告においてこれを甘受すべく同原告の本主張は当らない。

(2)  米の自家消費分二石一斗については当事者間に争がない。

(3)  米の当期末棚卸量六升も当事者間に争がない。

(4)  差引使用量

前記(1)の仕入量六石五斗六升より(2)の自家消費分二石一斗及び(8)の当期末棚卸量六升を差引いた残り四石四斗が同原告の当期の使用量となることは計数上明らかである。

(5)  一升当り丼の製造量が八食であることは当事者間に争がない。

(6)  丼類の総製造量

前記(4)及び(5)により丼類の総製造量を計算するに

8食×440=3,520食

即ち三、五二〇食である。

(7)  丼類の種類別数量

原告松原等の販売した四種の丼類(親子丼、玉子丼、肉丼、きつね丼)は同一数量であることは当事者間に争がないから各種の丼類の製造販売量を算出するに前記(6)の三五二〇食を四で除して得た商八八〇食が各種丼の製造量である。

(8)  丼類の種類別単価

丼類の種類別単価が次の通りであることは当事者間に争がない。

親子丼  八〇円

肉丼   八〇円

玉子丼  七〇円

きつね丼 五〇円

(9)  丼類の収入金額の計算

前記(7)及び(8)により丼類の収入金額を計算すると次の通りとなる。

親子丼  80円×880=70,400円

肉丼   80円×880=70,400円

玉子丼  70円×880=61,600円

きつね丼 50円×880=44,000円

合計        246,400円

2、そば類の収入金額の計算

(1)  そば粉の当期仕入量が六八七貫であることは当事者間に争がない。

(2)  当期末棚卸量

成立に争のない乙第五号証によれば当期末においてそば粉一五貫の棚卸量のあつたことが認められる。

(3)  そば粉の使用量

前記(1)の六八七貫より(2)の当期末棚卸量一五貫を差引いた残量六七二貫は当期のそば粉使用量となる。

(4)  つなぎ用小麦粉の使用量

そば粉のつなぎ用として使用する小麦粉の量はそば粉の量の二割の割合であることは当事者間に争がない。よつて此の割合によるつなぎ用小麦粉の使用量は次の通りとなる。

672貫×2/10=134貫

(5)  そばの原料合計

前記(3)及び(4)の合計八〇六貫がそばの使用総量となる。

(6)  そば一貫当りから三七食とれることは当事者間に争がない。(但し、ざるそばを除く)

(7)  そばの種類別製造量

成立に争のない乙第六号証によれば原告松原等が仕入れたそば粉の各月別数量は別紙第四表中、加賀京作よりのそば紛の仕入量の欄記載の通りであることが認められ、証人吉村正信の証言及び之により真正に成立したものと認める乙第四号証によれば福井市内で原告松原等と同業者である訴外森下弥作は金沢国税局収税官吏石瀬保彦に対し

(イ) 暑い季節に売れるそばは生そば(かけそばを指称する、以下同じ)とざるそばが約半々位であること。

(ロ) 寒い季節に売れるそばは生そば約八割、かやくそば約二割であること。

(ハ) 生そばとざるそばの原料の使用量は生そば一に対しざるそば一、五程であること。

を供述し、被告は之に基きそば一貫当り製造量三七食に対しざるそば一貫当り二四、七食の製造量とし、右供述中暑い季節とは六月より九月迄、寒い季節とはその余の月とし、当期末棚卸量のそば粉一五貫は原告松原等が加賀京作より仕入れた十二月分一〇八貫より控除して別紙第四表の通り計算したものであることは本件口頭弁論の経過に徴して明白であり、被告のこの計算方法は妥当であるから同表による計算の結果たる

生そば   一七、二〇一食

かやくそば  二、六三四食

ざるそば   六、六六三食

計     二六、四九八食

は相当であると認める。

(8)  そばの種類別単価

被告の主張によれば原告松原等のざるそば、及びかやくそばの販売価格は一食五十円、生そばの販売価格は一食二十五円であり此のことは原告の明らかに争わないところである。

(9)  そばの収入金額の計算

前記(7)及び(8)によりそば類の収入金額を計算すれば次の通りとなる。

生そば   一七、二〇一食 単価二五円  四三〇、〇二五円

かやくそば  二、六三四食 単価五〇円  一三一、七〇〇円

ざるそば   六、六六三食 単価五〇円  三三三、一五〇円

合計    二六、四九八食        八九四、八七五円

3、うどん類の収入金額の計算

(1)  小麦粉の仕入量

前記乙第二号証の三によれば原告松原等は昭和二八年五月より同年一二月迄訴外株式会社内山常吉商店より合計一四八袋金一七七、三一〇円を仕入れたことが認められ、一袋が六貫であることは当事者間に争がないから右の仕入量は八八八貫である。原告松原等は営業開始前たる昭和二八年五月二日より同年同月一六日迄に右訴外商店より五袋仕入れた分は営業外であると主張するけれども証人石瀬保彦の証言(第一回)及び之により真正に成立したものと認める乙第一四号証を綜合すれば右五袋は原告松原等が開業準備のために仕入れたもので営業用であると認めるのが相当であるから同原告の右主張は之を排斥する。

次に証人石瀬保彦の証言(第一回)及び之により真正に成立したものと認める乙第七、一五、一六号証を綜合すれば原告松原等は昭和二八年五月より同年一二月迄の間に福井中央米殻販売企業組合幸橋販売店より少くとも五袋(三〇貫)以上を仕入れたものと認める。右認定に反する証人杉山正の証言(二回共)及び此の証言により成立を認め得る甲第一号証は何れも措信しない。

よつて小麦粉の仕入量は合計九一八貫(一五三袋)である。

(2)  当期末棚卸量

成立に争のない乙第五号証によれば原告松原等の当期末における小麦粉の棚卸量は二袋(一二貫)であることが認められる。

(3)  そば粉のつなぎ用小麦粉が一三四貫なることは前説示2(4)において認定したところであるから此の一三四貫はうどん類の計算より之を控除しなければならぬ。

(4)  うどん類製造用として使用した小麦粉の量。前記(1)認定の小麦粉の仕入量合計九一八貫より(2)の棚卸量一二貫(3)のつなぎ用一三四貫を控除すればうどん類製造に要した小麦粉の量は、その残額七七二貫である。

(5)  小麦粉一貫当りのうどん製造量が四七食であることは当事者間に争がない。

(6)  うどん製造量

前記(4)及び(5)によりうどん類の総製造量を計算すれば

47食×772=36,284食

(7)  うどん類の種類別製造計算

副材料の使用量によりうどん類の種類別収入金を計算すれば次の通りである。

(イ) 副材料の仕入金額の計算

肉、かしわを除く副材料の仕入額が金五三九、二六八円なることは当事者間に争がない。

(ロ) 副材料の種類別仕入金額

証人吉村正信の証言により成立を認め得る乙第八号証によれば原告松原等は訴外前川五三郎より昭和二八年九月八日乃至同年一二月末日の間に

玉子            七二、七五七円

あげ            二三、七〇三円

地板(福井産かまぼこ)    二、一一二円

つるが板(敦賀産かまぼこ) 一二、四八一円

のり、はし、しいたけ等  一〇七、三二三円

合計           二一八、三七六円

を仕入れたことが認められるから、右金額と前記(イ)の争なき仕入額との比率により玉子、あげ、地板、つるが板の当期における仕入額を推算すれば次の通りである。

玉子   72,757円×539,268円/218,376円=179,709円

あげ   23,703円×539,268円/218,376円=58,546円

地板   2,112円×539,268円/218,376円=5,216円

つるが板 12,481円×539,268円/218,376円=30,828円

其の他  107,323円×539,268円/218,376円=264,969円

合計                   539,268円

(ハ) 副材料の仕入単価

証人吉村正信の証言により成立を認め得る乙第九号証によれば原告松原等が前記前川五三郎より仕入れた副材料の仕入単価は次の価格であることが認められる。

玉子   一貫目 八〇〇円 (約七十個)

あげ    一枚   七円

地板    一枚  二七円

つるが板  一枚  三四円

(ニ) 副材料の計算

前記(ロ)の仕入金額及び(ハ)の仕入単価とにより副材料の使用量を計算すると次の通りである。

玉子 179,709円/800円=224(貫)、 70個×224=15,680円

あげ 58,546円/7円=8,363(枚)

地板 5,216円/27円=193(枚)   ┐

│合計1,099(枚)(かまぼこ)

つるが板 30,828円/34円=906(枚)┘

原告松原の主張によれば玉子は副材料として使用せず生のまゝ販売するものがあると主張するけれども、その数量を明示せず且つ之を認めるに足る証拠がない。

(ホ) 肉、かしわの当期使用量が合計三二貫三〇〇匁であることは当事者間に争がない。

(ヘ) うどんの種類別製造数量

以上(イ)乃至(ホ)を綜合してうどんの種類別製造数量を計算すれば次の通りとなる。

(a) 玉子を使用するうどんの製造量

玉子を一食に一個使用することは当事者間に争がなく玉子を使用する丼うどん類は親子丼、玉子丼、玉子うどんの三種類であるから玉子一五、六八〇個により一五、六八〇食が製造できるのであり、そのうち親子丼及び玉子丼が各八八〇食であることは前記(一)1.(7)において認定したところであるから右一五、六八〇食より右各八八〇食を控除した残り一三、九二〇食が即ち玉子うどんの製造量であると認める。

(b) あげを使用するうどんの製造量

あげ一枚は二食に使用されることは当事者間に争がないから、あげ八、三六三枚では一六、七二六食製造できるのであり、あげを使用する丼及びうどん類はきつね丼ときつねうどんの二種類であるから前記認定のきつね丼八八〇食を右食数より差引いた残り一五、八四六食がきつねうどんの製造量であると認める。

(c) かまぼこを使用するうどんの製造量

証人吉村正信の証言により成立を認め得る乙第四号証によればかやくうどん及びかやくそばに使用するかまぼこは同量で一枚から四食乃至五食とれることが認められるから、一枚から四、五食とつたものと推定し前記(ニ)のかまぼこの使用量一、〇九九枚に四、五を乗ずれば四、九四五食製造できる、そのうちかやくそばの製造量については前記(一)2.(7)において二、六三四食と認定したから右四、九四五食より右二、六三四食を控除した残り二、三一一食がかやくうどんの製造量となる。

(d) かしわ、肉を使用するうどんの製造量

かしわ、肉の全仕入量が三二貫三〇〇匁で一食一〇匁を使用し、三、二三〇食であることは当事者間に争がない。

しかしてかしわ、肉を使用する丼及びうどん類は親子丼、肉丼、親子うどん、肉うどんの四種類であるが丼については前記(一)1.(7)において親子丼八八〇食、肉丼八八〇食と認定したから右三、二三〇食より右丼の合計一、七六〇食を控除した残り一、四七〇食が親子うどん及び肉うどんの製造量となる。

(e) 並うどんの製造量

うどんの総製造量は前記(6)において算定した通り三六、二八四食であるから之より右各種うどんの製造量(玉子うどん一三、九二〇食、きつねうどん一五、八四六食、かやくうどん二、三一一食、親子、肉うどん一、四七〇食)合計三三、五四七食を控除した残り二、七三七食が即ち並うどんの製造量となる。

(ト) うどんの種類別単価

うどん類の販売価格が親子、肉うどん五〇円、玉子うどん五〇円、きつねうどん三〇円、並うどん二〇円であることは当事者間に争がなく、かやくうどんの販売価格が五〇円であるとの被告の主張は原告の明らかに争わないところである。

(チ) うどん類の収入金額の計算

前記(ヘ)及び(ト)によりうどん類の収入金額を算出すると次の通りとなる。

玉子うどん   一三、九二〇食 単価五〇円  六九六、〇〇〇円

きつねうどん  一五、八四六食 単価三〇円  四七五、三八〇円

かやくうどん   二、三一一食 単価五〇円  一一五、五五〇円

親子、肉うどん  一、四七〇食 単価五〇円   七三、五〇〇円

並うどん     二、七三七食 単価二〇円   五四、七四〇円

合計      三六、二八四食      一、四一五、一七〇円

4、飲料水の収入金額

次の飲料水の収入があつたことは当事者間に争がない。

サイダー 五二、五〇〇円

ラムネ  二〇、八七〇円

氷水   一一、九二五円

合計   八五、二九五円

5、以上を綜合して総収入金額を算出すれば次の通りである。

丼類の収入金((一)1.(9))        二四六、四〇〇円

そば類の収入金((一)2.(9))       八九四、八七五円

うどん類の収入金((一)3.(7)(チ)) 一、四一五、一七〇円

飲料水の収入金((一)4.)          八五、二九五円

合計                   二、六四一、七四〇円

(二)  販売原価の算出は次の通りである。

1、米の仕入原価

原告松原等が当期に仕入れた米の平均仕入価額が一石当り金一三、四五二円であることは当事者間に争がなく、同原告の当期における営業用米の仕入量が四石四斗なることは前記(一)1.(4)に認定したところである。よつて右四石四斗の仕入価額合計は五九、一八八円となる。

2、小麦粉の仕入原価

前記乙第二号証の三によれば小麦粉一四八袋の仕入価格合計は金一七七、三一〇円であることが認められるからその平均仕入価額は一袋当り金一、一九八円となる。そして原告松原等の当期小麦粉仕入量が一五三袋なることは前記(一)3.(1)記載の通りであるから右一五三袋の仕入価格は右平均仕入価格一袋当り一、一九八円により計算するときは一八三、二九四円となる。

3、その他

その他次の諸材料の当期仕入価格については当事者間に争がない。

そば粉        二二〇、三〇〇円

砂糖          四九、〇九五円

かつを        一〇八、六〇〇円

みりん         三七、七六四円

醤油          七四、一〇〇円

肉、かしわ       六〇、四二五円

玉子、あげ等     五三九、二六八円

サイダー        三五、七〇〇円

ラムネ         一四、六一〇円

蜜            六、三六〇円

計        一、一四六、二二二円

以上1乃至3の総計一、三八八、七〇四円

4、当期末棚卸額

原告は当期末棚卸額を金一〇、〇〇〇円と主張しているけれども成立に争のない乙第五号証により金二二、六九〇円であると認める。

5、以上を綜合して販売原価より棚卸額を控除すれば金一、三六六、〇一四円となる。

(三)  必要経費について

必要経費たる次の費目の金額については当事者間に争がない。

(イ)  家賃  一九〇、〇〇〇円

(ロ)  雑費   一六、八五〇円

(ハ)  修繕費   八、二七〇円

(ニ)  火災保険料 六、六〇〇円

(ホ)  広告料  一二、五五〇円

(ヘ)  交際費   二、一〇〇円

(ト)  光熱費  九九、八六〇円

(チ)  消耗品費 四二、〇六五円

(リ)  利子    七、二三三円

(ヌ)  遊興飲食税 七、四〇〇円

(ル)  給料  一五〇、〇〇〇円

必要経費合計   五四二、九二八円

(四)  給与所得について

原告松原等の昭和二八年一月より同年四月迄原告大谷貞に雇傭されていた期間の給与所得額が金二七、五〇〇円であることについては当事者間に争がない。

(五)  原告松原等の所得額について

以上の認定を綜合すれば次の通りである。

収入金額((一)) 二、六四一、七四〇円

販売原価((二)) 一、三六六、〇一四円

差引(売上利益金) 一、二七五、七二六円

必要経費((四))   五四二、九二八円

差引営業所得金額    七三二、七九八円

給与所得         二七、五〇〇円

総所得金額       七六〇、二九八円

即ち原告松原等の当期所得金額は右の通り金七六〇、二九八円となり被告の所得決定額たる金四〇八、二〇〇円を超過すること明白である。よつて原告松原等が山田幹夫名義の銀行預金を以て同原告の所得を隠匿していたか否かの判断をする迄もないから之を省略する。

次に原告大谷貞の所得決定について考察する。

(一)  売上利益金の計算方式について。

原告大谷貞の昭和二八年一月一日より同年四月二五日迄の小麦粉及びそば粉以外の材料の仕入高は当事者双方において判明しないため已むなく、原告大谷貞の営業成績は同原告の営業を承継した原告松原等の営業成績と同一状態であつたものと推定し、次の方式

原告大谷貞の(うどん及びそばの仕入量)×原告松原等の売上金額より売上原価を控除した利益金/(原告松原等のうどん粉(棚卸量を除く)及びそば(除くとり粉)の仕入量)=原告大谷貞の売上利益額によることを原告が主張し被告もこれを認めている。

よつて右計算方式を是認しこれによつて原告大谷貞の小麦粉仕入量を按ずるに証人石瀬保彦の証言により真正に成立したものと認める乙第十五号証によれば同原告は昭和二八年一月より同年四月迄に小麦粉五八八貫(九八袋)を株式会社内山常吉商店より仕入れた事実が認められる。

なお、被告はその他に同原告が右の期間に福井中央米穀販売企業組合幸橋販売店より小麦粉を仕入れていると主張するけれども被告の全立証によるも其の仕入の事実及び仕入量を確認することができない。

同原告の昭和二八年一月より同年四月迄のそば粉の仕入量が三八三貫であることは当事者間に争がない。

よつて前記計算方式により同原告の売上利益金を計算すれば次の通りとなる。

〔小麦粉588(貫)+そば粉383(貫)〕×1,275,726(円)/〔906(貫)+672(貫)〕=784,999(円)

即ち原告大谷貞の当期の売上利益金は金七八四、九九九円となる。

(二)  必要経費について

次の費目の金額については当事者間に争がない。

光熱費        七一、四七五円

通信費         七、八二一円

組合費         一、二〇〇円

修繕費         一、二四〇円

雑費          四、〇〇〇円

事業税        七八、〇〇〇円

遊興飲食税      一二、八二〇円

事業税(廃業年度分)  八、二六〇円

地代          三、四〇〇円

消耗品費        一、二四〇円

雇人費については成立に争のない甲第二号証により金一二二、八〇〇円と認める。

以上の必要経費合計 三一二、二五六円

(三)  差引営業所得金額は当期売上利益金七八四、九九九円より必要経費三一二、二五六円を控除した残額四七二、七四三円である。

(四)  不動産所得金額

原告大谷貞が昭和二八年四月廃業後其の店舖を原告松原等に賃貸し同年五月より同年一二月迄の家賃合計が金一三三、〇〇〇円なることは当事者間に争のないところでありこれは原告大谷貞の不動産所得として同人の収入に計上すべきである。

(五)  よつて原告大谷貞の総所得金額は右営業所得金額四七二、七四三円に右不動産収入一三三、〇〇〇円を加えた計金六〇五、七四三円であると認める。然るときは之が被告の原告大谷貞に対する所得決定額たる金四七三、二〇〇円を超過することは明らかである。

なお、福井市内の他の同種の飲食業者に対する福井税務署長の昭和二八年度の課税額と原告等のそれとの権衡につき考慮するに成立に争のない乙第十七号証によれば原告両名の経営する店舖に対する課税額は福井市内麺類飲食業者中第三位になつてはおるが当裁判所の検証の結果によるも原告等の店舖は福井市内の映画館の密集する最繁華街にあつて客の来集も繁きものと認め得べく従つて第三位と認定せられても何等権衡を失するものではなく妥当なものといわなければならない。

以上検討したところにより被告の決定には何等取消すべき違法は存しないから原告等の請求は理由がなく之を棄却することゝし訴訟費用に付民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 観田七郎 辻三雄 柳原嘉一)

(別表省略)

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